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特集


「1.宅地に適した地盤調査方法は?」 2006/09/29


 地盤の許容応力度及び基礎ぐいの許容支持力を求めるための地盤調査の方法並びにその結果に基づき地盤の許容応力度及び基礎ぐいの許容支持力を定める方法等を定める件

■国土交通省告示1113号■
 第一 地盤の許容応力度及び基礎ぐいの許容支持力を求めるための地盤調査の方法は、次の各号に掲げるものとする。
     一 ボーリング調査
     二 標準貫入試験
     三 静的貫入試験
     四 ベーン試験
     五 土質試験
     六 物理探査
     七 平板載荷試験
     八 載荷試験
     九 くい打ち試験
     十 引抜き試験

 国土交通省告示1113号には同省が認める地盤調査法が10種類指定されています。一般に宅地地盤調査で最も普及しているスウェーデン式サウンディング試験は上記「静的貫入試験」に該当します。また、弊社が用いている表面波探査は上記「物理探査」に該当します。

■平板載荷試験■
 宅地における地盤調査の場合、住宅を建てて不同沈下が起こらないかどうか、言い換えれば、調査地地盤に対応した不同沈下しない建物を設計するための正確な地盤情報を収集、提供するのが地盤調査の役割です。告示中にある調査方法の内、宅地における地盤調査に最も適したものはいったい何なのでしょうか?
 前述国土交通省告示の中に「平板載荷試験」というものがあります。これは調査する地盤上に直径30cmの鉄製の円盤を置き、これに荷重をかけていきます。荷重に対して地盤が抵抗出来なければ円盤は沈んでいきます。 荷重が増すにつれわずかづつ比例して沈下する状況では問題ありませんが、荷重が一定の限度をこえて増すと急に沈下量が多くなります。このとき円盤にかかっていた荷重(接地圧)を持つ建築物は建てられないことが判ります。この試験方法は非常に判りやすい方法であるといえます。
 「平板載荷試験」は公共機関で行われる造成工事などでは良く使われている試験方法です。ただし、現在行われている「静的載荷試験」は試験・解析費用が住宅の地盤調査として利用するには金銭的な負担が大きくなります。また、この試験方法のみで地盤情報全てが判る訳ではありません。この試験で地盤強度が判る深さは円盤の直径に対し、2〜3倍の深さまでですので、表面のみ固い地盤では深い部分が判定出来ません。円盤の寸法が一般的な住宅の基礎の寸法とは異なるため、沈下に影響する範囲も両者では当然異なります。よって、住宅の場合、さらに深い位置まで検討しておく必要があといえます。
 地盤の条件にもよりますが、上記平板裁可試験と表面波探査とは比較的良い相関性があるりますので、金銭的な問題さえ無ければ、平板載荷試験と表面波探査と組み合わせ、調査を行うのがよりよい方法であるといえます。

■適材適所■
 国土交通省告示に定められた調査方法を用い、同一地盤で試験したとしても、その結果は必ずしも一致しません。むしろ、異なる結果が出る場合が多いといえます。
 これは適材適所とでも申し上げましょうか、調査方法は目的に合わせて選定すべきものであり、どれでもどこでもOKということではないのです。
 調査の目的に合わせ、適切な調査方法を選択し、場合によっては、調査方法を組み合わせることにより、調査精度を向上させる努力が必要となります。



「2.杭を打てばそれでいいのか!?」 2006/09/29


■杭神話■
 「杭神話」という言葉があります。建築物を支えるには杭が一番良いと思われていることです。建物の荷重を支えることの出来ない地盤では地盤下部にある支持地盤まで杭を打って建物を支えるのです。とはいえ、地盤が強固であれば「杭」は不要です。
 建築業界ではビルなどの大型建築物は杭を打つのが当たり前のように思われています。しかし、東京にある高層ビルの中には杭を打っていないビルもあります。池袋にあるサンシャイン60は現状地盤(地表面)の下方25mの所に分布している通称「東京礫層」と呼ばれる強固な砂礫層の上に直接基礎を造って建物が乗っています。この地層は霞ヶ関あたりでは「有楽町礫層」と呼ばれていますが、同一のつながった地層です。霞ヶ関にはご存じ日本ではじめての高層ビル「霞ヶ関ビル」が建っています。しかしこれは杭を「有楽町礫層」まで打ってあります。

■木造住宅と杭■
 上記建築物は基礎工法は異なりますが、構造計算を行い、耐震基準を考慮した建物ですから、どちらが良い悪いといったものではありません。問題は木造住宅です。「杭」(PC杭、鋼管杭、コラム等の総称)を打ったばかりに構造躯体が壊れたり、基礎が破損してしまった事例が中越地震の際にありました。

□例1□
 中越地震の震央付近の事例です。地盤は建物を支えるに充分な強度が有るにもかかわらず、より丈夫にと「杭」を地盤下部の固い地層まで打ったばかりに激しい上下動に耐えきれず、通し柱が折れて建物が「くの字」型に変形してしまったケースがあります。付近の建物はこのようにはなっていません。地盤の表層がクッションの役目を果たしていたのです。

□例2□
 やはり中越地震での事例です。平野部で軟弱地盤ということからコラム(柱状改良工法)を採用した基礎工の建物ですが、基礎が破損や、クラック等で床が波打ち状態になりました。基本的に木造住宅の上物はピン構造で、基礎は鉄筋コンクリートですからラーメン構造なのです。コラムは基礎下部に施工しますから打つ位置が重要となってきます。上物の荷重が柱を伝って基礎に掛かります。柱の真下に荷重がかかりますが、応力分散、基礎のたわみ等を考慮し適切な場所にコラムを配置しなければなりません。
 基礎の構造計算がなされて、設計通り施工がされていれば防ぐ事が出来たと考えられる事例の一つです。伝統の木造とは鉄筋コンクリートの基礎採用しません。(昔はありませんでしたから)そのかわり太い柱・梁が用いられ、石の上に柱が乗ります。「剛構造」なのです。

□例3□
 この事例は中越地震とは関係ない地域での事例です。
 粘性土の軟弱地盤での事例です。支持地盤が深いので「鋼管杭」の本数を増やし、摩擦抵抗を考慮した設計で、鋼管杭は支持層には達していません。摩擦抵抗は粘土のネバネバした性質(粘着力と言います)を利用する考え方の工法でこの考え方は大きなビルなどでも採用されています。間違った設計とは考えられませんし、施工も設計書通りでした。しかし、この物件は不同沈下してしまいました。
 では、何故不同沈下してしまったのでしょうか?
 原因は杭を伝って水が地下へわずかづつ流れていったことです。これにより、粘土と鋼管杭間の粘着力が失われて摩擦抵抗(フリクション)が働かなくなったのです。予想外とはいえ起こるべくして起こった事故であると言えます。基礎は栗石または砕石を締め固めてベースを打設します。基礎完成時には地中に埋まっていますが、周囲に降った雨が栗石や砕石の隙間に集まります。何処でもあることなのです。この水が鋼管杭を伝って地中に流れ込んでしまい、その結果、杭は前述のように摩擦抵抗力を奪われ、建物の不同沈下を引き起こしてしまったのです。

■杭を打つ前に■
 傾斜地における支持地盤の傾斜が原因で、やむを得ず杭を打つ場合は別ですが、水平地盤上ではあるが、支持層となるべき地盤が浅いところにないから杭を打つという場合は、基礎構造をもう一度見直し、当該物件に関し、杭を打つことが考えられる対応策のうち最善であるか否かをよく検討してみる必要があるのではないでしょうか?



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「住宅建築に携わる者の責任」 2006/04/01






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